高麗博物館の意見表明

2023年関東虐殺100年の取り組みを終えて

2023年、関東大震災100年にあたって高麗博物館では、関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺(*以下関東虐殺と表記)に館を上げて取り組む方針を打ち出しました。その中核が、7月5日~12月24日の間、開催した企画展「関東大震災100年─隠蔽された朝鮮人虐殺」と7月31日に実施したイベント「関東大震災から100年~過去に学び、未来の共生社会を作るレッスン~」でした。幸い両プログラムとも多くの来場者があり、年度初めに立てた方針をある程度実践できたと思います。取り組みを終えて時日が経ちましたが、改めて総括を行い、日本社会の現状に鑑みて高麗博物館として意見を表明します。

企画展の来場者へのアンケートや聞き取りから明らかになったのは、まず公教育の課程で関東虐殺の事実がほとんど教えられていない、とくに植民地支配との関係が全く言及されていないということでした。さらに関東虐殺に責任を負うべき政府の不作為が今日のレイシズムの蔓延する社会の現状につながっていることにも危機感を覚える意見もありました。展示期間中、福島瑞穂議員や杉尾秀哉議員の関東虐殺に関する国会質問がありましたが、政府は責任回避の不誠実な答弁に終始し、上からの歴史否定が憂慮すべき状況にあることを実感させられました。
また、高麗博物館が例年開催し、新宿区から後援を得ているイベントが昨年度初めて不許可とされました。不許可の理由として「区の方針と一致しない」と言われましたが、具体性を欠き到底納得できるものではありません。この企画のどこがどういう理由で区の方針と一致しないのか明示しないという姿勢は、市民の活動に委縮をもたらす危険性もある不誠実な態度だと言わざるを得ません。

関東大震災100年にあたる昨年は、関東虐殺の事実を巡って真相究明と事実の隠蔽・歪曲の動きが交錯し相克する一年でした。2023年度館を挙げて関東虐殺に取り組むことをテーマと定めた高麗博物館は、歴史の事実に向き合うことを目的とする博物館として、以下のことを各方面に求めたいと思います。

1.日本政府は、虐殺の事実を隠蔽する姿勢を改め、真相究明と謝罪、犠牲者の名誉回復と賠償の責任を果たすこと。
2.東京都は、朝鮮人追悼会への追悼文の送付再開し、併せて東京都人権部による飯山由貴作品の上映不許可処分を取り消し製作者に謝罪すること。
3.新宿区は、高麗博物館イベントの後援不許可処分の経緯を明らかにし、誠実に説明責任を果たすこと。
4.文部科学省および各教育委員会等教育行政に責任を有する諸機関は、関東虐殺の事実に学習者が触れる機会を確保すること。

以上

注記*関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺が震災の混乱が原因となって発生した惨事ではなく、日本の朝鮮半島植民地化の過程で繰り返された朝鮮民衆への虐殺行為という歴史的文脈のなかでとらえるべきだという視点から「関東虐殺」という言い方をします。